マジックって結構好きなんだよね。
別にマジックを披露できるわけじゃないし、そんな熱量でもないけど、傍観者としては比較的好きぐらいのモチベーションだ。
現代は科学の進歩によって、多くの事象を説明できる。マジックもタネはあるし説明はできるのだろうが、一見、魔法を使ったのではないかと思わせる凄さがある。
だから好きなのだ。
私もみんなにワクワクを届けてみたくはある。
しかし前述したようにそこまでの熱量ではない。何より私は努力が大嫌いだ。マジックを披露するのに努力が必要ならば、ワクワクなど届けなくていい。クソくらえ。
私は努力じゃなく才能を誉めて欲しい。逸材だと認知してもらえればもうそれでいい。
マジックも天才だと思われたい。あわよくば周りもハッピーにしたい。その両方を叶える案がある。
日常的に偶然マジックが出ちゃう人になる。
例えば、くしゃみをしたら鼻から国旗が出ちゃう。みたいな偶然を装ったマジックをする。周りに居合わせた人たちはこの奇跡体験に感動を隠せないだろう。通りすがりのマジシャンも驚愕するだろう。今後マジック界を背負って立つ男が現れたと。
なにより努力の必要がない。鼻に国旗を詰めるだけだ。マジシャンの卵なのだからこのぐらいのクオリティでも文句はないだろう。いきなり努力しまくったマリックと肩を並べる必要はないのだ。
初期値で言えばマリックだって目じゃない。マリックだって意図してない時にマジックは出なかっただろう。
もう少し、天性のマジシャンになる具体的なプランを考えていこう。
マジックと言えば鳩だ。鳩も基本隠しておけばいいだけのようだ。比較的簡単に真似できそうだ。
物を取り出す際に鳩が出ちゃう人になろう。しかしバッグやカバンから出すのは、ただデカいところに小ちゃい物を隠していただけだ。もう少しクオリティを上げたい。
スーツの内ポケットから、名刺交換の際に鳩を出そう。
ここで注意点だ。あくまで偶然を装う。鳩が出たことに自分も驚き、辺りをキョロキョロと見渡さなければならない。仕込んでいたと悟られてはならない。
ビジネスシーンのため失礼の無いようにしよう。
もっと日常の些細なことでも天才感を出していきたい。多くの人の目につくところでこそ才能を遺憾なく発揮したいものだ。
電車だ。通勤、通学で朝の満員電車に乗り込み、喧騒を紛らわすために音楽でも聴こう。ワイヤレスイヤホンを取り出し、耳に装着。
耳がでっかくなっちゃった!
なんでなんでなんで!?えー!?
例のごとく辺りを見渡そう。負の感情が立ち込んでいた車内は、花畑にいるのではないかと疑うぐらいの朗らかな笑顔と和やかな空気に満ち溢れているだろう。
車内にいるマジシャンは、風雲児の誕生に立ち尽くし、ハットの中にいた鳩は逃げ出してしまうだろう。
これで天才だと世間に認知させることができた。また周囲の人に奇跡体験とワクワクを提供できた。
次は何の天才になろうか。